ボロディン 音楽と化学の話
「ダッタン人の踊り」って曲、有名ですよね。この曲を書いたのはアクサンドル・ボロディンという作曲家です。「展覧会の絵」の原曲を書いたムソルグスキー*1や「熊蜂の飛行」を書いたコルサコフ*2などと合わせて「ロシア五人組」に数えられた人です。
ボロディン オペラ「イーゴリ公」より「韃靼人の踊り」 - YouTube
wikipediaにも載ってるくらい有名な話ですが、ボロディンの本業は作曲家ではなくて、サンクトペテルブルク大学の教授、化学者だったんですね。
実は、そんなボロディンの名を冠した反応があります。
別の発見者の名前をとってハンスディーカー反応(Hunsdieker Reaction)とも呼ばれる反応です。こちらの方が知られた名前かも知れません。
四塩化炭素中、カルボン酸銀塩に臭素を作用させることで脱炭酸を伴って臭化物を得る反応です。
Scheme 1. ボロディン反応(ハンスディーカー反応)の一般式
実は、この反応、僕にとってはとても思い入れのある反応なのです。特にこの時期、研究室に配属されたばかりで分からないことだらけの学部生が実験しているのを見ると、5年前の自分を思い出します。
当時、僕はこのボロディン反応を仕込んでいました。この時は、3,5-ジニトロ安息香酸(1)をエタノール中、硝酸銀と作用させて対応するカルボン酸銀塩(2)に導き、ボロディン反応によって1-ブロモ-3,5-ジニトロベンゼン(3)を得ようと考えていました。
Scheme 2. 学部4年生の僕が考えていた1-ブロモ-3,5-ジニトロベンゼン(3)の合成経路*3
ですが、硝酸銀のエタノール溶液を手にかけてしまってひと月以上手が真っ黒になったままだったり、カルボン酸銀塩が上手くできなかったり、で随分苦労した記憶があります。
なんとか化合物3の合成に成功して次に進めることができたのですが、後に、m-ジニトロベンゼンを濃硫酸中、60 °CでN-臭化コハク酸イミド(NBS)を作用させるだけで合成できてしまうことが分かり「なんでもっと文献を調べなかったんだ」と落ち込んだりもしました。*4
ですが、このボロディン反応を使って作った基質で修論まで続くデータを出したことを思うと、なんだか、無駄じゃなかったかなぁと思ったりもします。
(あれ、ボロディンの話は?)